日常で「シミ」と「ほくろ」はよく聞くけれど、シミやほくろは同じ“色のある斑点”には変わりありませんから、「見分け方がわからない」「同じ治療法で取れるの?」といった疑問も出てきます。
そこで本日は、シミ(肝斑・日光性色素斑)とほくろ(色素性母斑)の違いについて、詳しくお話ししていきます。
1.色素斑
● シミ(肝斑・日光性色素斑)
- 肝斑(かんぱん)
主に顔の両頬に左右対称に広がる淡褐色斑。紫外線、ホルモン変動、摩擦などが誘因となり、メラノサイト(色素細胞)が過剰に働いてメラニンを生み出すことで生じます。女性に多く、30~40代で目立ちやすいのが特徴。
- 日光性色素斑(老人性色素斑)
いわゆる“シミ”で、長年の紫外線ダメージが積み重なってできる色素沈着です。加齢とともに増えやすく、顔や手の甲など露出部に生じて境界は比較的はっきりしている傾向があります。
● ほくろ(色素性母斑)
- 一般に「ほくろ」は、母斑細胞(メラノサイトが腫瘍性に変化したもの)が固まって増殖する良性の色素性腫瘍です。
- 遺伝的素因や思春期のホルモン変化、紫外線などが重なって数や大きさが変わることも。通常は左右対称の丸形で、小さいうちは平坦な「接合母斑」、徐々に盛り上がる「真皮内母斑」などに移行するタイプがあります。
2.組織学的に見た違い
● シミ:メラニン沈着
- 肝斑や日光性色素斑はいずれも表皮や真皮上層にメラニン色素が増えている状態。
- 肝斑:基底層にメラニンが多く、さらに真皮にも少しメラニンが漏れ出しマクロファージ(メラノファージ)がそれを取り込むケースも。
- 日光性色素斑:基底層のメラノサイトの軽度増生&メラニン沈着。いわば“光老化”のしるしとして表皮の変性が見られることが多いです。
● ほくろ
- 母斑細胞(異型化したメラノサイトに近い細胞)が表皮~真皮に**“ネスト(巣)”**を形成。
- 進行に伴い、表皮寄り→真皮内へ下っていく「成熟現象」が特徴的です。
3.どうやって見分ける? 臨床・ダーモスコピーでの鑑別
● シミ
- 肝斑は輪郭がぼやけて広い範囲をとり、左右対称になりがち。日光斑は境界がくっきりした丸い斑点。
- ダーモスコピーでは、毛穴の周りに色素が薄い“偽網目”や均一な褐色のびまん性変化などを認めます。
● ほくろ
- 左右対称で丸形、サイズが6mm以下、色調も均一。平たいタイプと盛り上がりタイプがある。
- ダーモスコピーでは、規則正しい網目や小球状のパターンを示すのが典型。
4.治療の違い
● シミ(肝斑・日光性色素斑)
- 肝斑:外用薬(ハイドロキノンやトレチノイン)+トラネキサム酸内服+低出力レーザー(トーニング)で少しずつ改善。刺激に弱いため、強いレーザーを当てると逆に色素沈着が悪化することもあります。
- シミ:QスイッチレーザーやシルファームなどのニードルRFでピンポイントにメラニンを破壊すれば、1~数回で比較的キレイに取れるケースが多い。必要に応じて凍結療法も選択肢に。
● ほくろ
- 基本的に放置OKだが、美容目的や悪性の疑いがあるなら除去。
- 小さい隆起ほくろなら炭酸ガスレーザーで削る、平坦な濃いほくろや大きなものは外科的切除が安心です。
- レーザー除去の場合、病理検査ができないデメリットがあるので、疑わしい場合は必ずメスで切り取って検査を行います。
5.悪性化のリスクや注意点
● シミ
- 肝斑や日光斑そのものが悪性化することはほぼありません。
- ただし高齢者の顔の大きめシミが実は「悪性黒子(lentigo maligna)」だったという例もあるので、形がいびつ・色ムラがある場合は要チェックです。
● ほくろ
- 一般的な後天性ほくろがメラノーマに変化するリスクは非常に低いですが、完全にゼロとは言い切れません。
- 特に巨大先天性母斑や異型母斑を多発する家系では黒色腫の発症率が高まるので、医師の定期的観察が必須。
- ほくろが急に形や色調を変えたら早めに診察を受け、必要なら切除と組織検査を行いましょう。
まとめ
「シミなのか、ほくろなのかは、見分けがつきにくいですが、
- シミ(肝斑・日光斑):紫外線やホルモンなどでメラニンが過剰生成された色素沈着
- ほくろ(色素性母斑):母斑細胞の良性増殖(腫瘍)
- シミは漂白療法や弱いレーザートーニングなどの“色素向け”アプローチ。
- ほくろは切除や炭酸ガスレーザーなどの“摘除”アプローチ。
万が一「色が変化してきた」「急に盛り上がった」「出血や痛みが出る」などのトラブルがあれば、悪性の可能性を含めて必ず専門医の診察を受けてください。
逆に言えば、きちんと鑑別できさえすれば、ご自身の希望に合わせた安全な治療が受けられます。
クリニックからのメッセージ
- シミかほくろか迷う場合も、まずは医師の診断を受けてみてください。
- 赤いほくろ(クモ状血管腫)でお悩みの方には、血管専用レーザー「Vビーム」の導入がおすすめ。肌の負担を抑えつつ、原因となる余分な血管をピンポイントで閉塞させ、自然と赤みを消退させることが可能です。
- それぞれの特徴を理解して、正しい治療法を選択するだけでなく、紫外線対策や肌ケアをきちんと行うことも大切です。「何がベストか分からない」という方は、ぜひお気軽にご相談くださいね。
参考文献:
- 葛西健一郎 他『このシミをどう治す?(第2版)』文光堂, 2015(肝斑・色素斑の総論)
- 渡辺晋一 他「色素性母斑に対するレーザー治療」J Visual Dermatology 2, 2003(ほくろ治療ガイド)
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