顔の赤みに悩む方は少なくありません。
「頬が常に赤い」「ほてりやすい」「ヒリヒリ感がある」など、症状は様々です。
この記事では、成人の顔面紅斑(顔の赤み)の主な原因について、わかりやすく解説します。
1. 酒さ
どんな病気?
酒さは慢性的な皮膚の炎症性=顔の赤みです。
頬や鼻を中心に、持続的な赤みやほてり、細い血管が浮き出る症状、さらに進行すると赤いブツブツ(丘疹)や膿疱が現れることもあります。
女性に多い傾向がありますが、男性では鼻が肥大することもあります。世界中の成人の約5%が罹患する可能性があり、意外にもアジア地域の有病率は約4%と比較的高いとされています。
発症のメカニズム
酒さの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要素が関わっています:
- 免疫システムの過剰反応
- 顔の毛細血管の拡張しやすさ
- 顔に存在する「ニキビダニ(デモデックス)」という微生物やその関連細菌への反応
- 腸内環境の乱れ
顔の毛細血管がもともと拡張しやすい状態にあり、これに炎症反応が加わることで赤みが持続します。また、一時的に顔が赤くなる「フラッシング」は、様々な刺激による血管の急激な拡張が原因です。
悪化させる要因
酒さの症状は以下のような要因で悪化します:
- 辛い食べ物や熱い飲み物
- アルコール摂取
- 運動や温度変化(寒暖差)
- 入浴やサウナ
- 紫外線
- ストレス
- 花粉(特にアジア人では影響が大きい)
- 月経などのホルモン変動
アジア人の特徴
欧米人の病気というイメージが強い酒さですが、アジア人にも少なからず存在します。アジア人では以下の特徴があります:
- 肌色により赤みが目立ちにくく、診断が遅れることがある
- 約半数のアジア人はアルコール代謝酵素(ALDH2)の活性が低下しており、飲酒で顔が赤くなりやすい
- 皮膚のバリア機能がやや弱く、刺激に敏感
2. 脂漏性皮膚炎
どんな病気?
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が多い部位(頭皮、生え際、眉間、鼻の周り、耳の周りなど)に生じる慢性的な炎症性皮膚疾患です。
赤みを帯びた皮むけ(フケのような鱗屑)を特徴とし、かゆみを伴うこともあります。思春期から中年の男性に多く見られますが、女性にも発症します。アジアでは成人の約1〜5%が罹患しているとされています。
発症のメカニズム
脂漏性皮膚炎の主な要因は以下の通りです:
- 皮膚に常在する「マラセチア」という酵母菌(真菌)の増殖
- 過剰な皮脂分泌
- 皮膚のバリア機能の低下
- 免疫反応の異常
- ストレスや疲労などの神経学的要因
マラセチアは皮脂を分解して遊離脂肪酸を産生し、これが皮膚に炎症や刺激を与えて赤みや皮むけを引き起こします。また、皮膚のバリア機能が低下していると、水分蒸発が増加し、真菌の増殖と炎症が助長されます。
悪化させる要因
脂漏性皮膚炎は以下の要因で悪化する傾向があります:
- ストレスや疲労
- 睡眠不足
- 季節の変化(冬の乾燥や気温変動)
- 湿度の高い環境
- 皮脂分泌の多いオイリー肌
- 男性ホルモンの影響
- 免疫力の低下状態
アジア人の特徴
アジア人の脂漏性皮膚炎には以下のような特徴があります:
- 東アジアの患者では、西洋人とは異なる種類のマラセチア菌(M. restricta)が多い傾向がある
- 刺激物に対する皮膚の感受性が高い
- 市販薬や民間療法によるステロイド外用薬の乱用で症状が悪化することがある
- 高温多湿の気候(特に東南アジア)により症状が長引くことがある
- 炎症後に色素沈着(肌の黒ずみ)が残りやすい
3. アトピー性皮膚炎
どんな病気?
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと慢性的な炎症を特徴とします。
子供の時に発症することが多いですが、成人期まで持続したり、大人になってから発症する例もあります。赤みは乳幼児では頬に顕著ですが、成人では顔から首周りにかけて慢性的な赤みがみられることがあります。
アジア諸国では成人の約3〜7%が罹患しているとされています。
発症のメカニズム
アトピー性皮膚炎の発症には以下の要因が関係しています:
- 皮膚のバリア機能の異常(水分保持能力の低下)
- 免疫系の過敏反応
- 遺伝的要因(特に「フィラグリン」という皮膚の保湿に関わるタンパク質の遺伝子変異)
- 環境因子による影響
皮膚のバリア機能が弱まると、外部からの刺激物質やアレルゲンが侵入しやすくなり、それに対する免疫反応として慢性的な炎症が起こります。
悪化させる要因
アトピー性皮膚炎は以下の要因で悪化します:
- 乾燥した環境や極端な温度変化
- アレルゲン(ダニ、ほこり、花粉、ペットのフケなど)
- 刺激物(石鹸、洗剤、化学繊維の衣類)
- ストレスや睡眠不足
- 発汗
- 大気汚染物質
アジア人の特徴
アジア人のアトピー性皮膚炎には以下のような特徴があります:
- 遺伝子変異の種類や頻度が欧米人とは異なる
- 免疫反応のパターンが特徴的(Th17/Th22経路の活性化が強い)
- 赤みが明確で鱗屑が目立ち、乾燥した炎症が特徴的
- 顔や首周りに限局する「頭頸部型」が多い
- 都市化や大気汚染の増加により患者数が増加傾向
4. 接触皮膚炎
どんな病気?
接触皮膚炎は、外部から触れる物質によって皮膚に炎症(赤み、発疹、かゆみなど)が生じる疾患です。
大きく分けて「アレルギー性接触皮膚炎」と「刺激性接触皮膚炎」の2種類があります。顔は化粧品や洗顔料、日焼け止めなど多くの物質に触れる部位のため、接触皮膚炎が起きやすく、頬や額、顎に赤みや皮むけが生じてかゆみやヒリヒリ感を伴うことがあります。
特に成人女性に多く見られます。
発症のメカニズム
- アレルギー性接触皮膚炎:特定の物質に対して免疫系が過敏反応を起こすもので、一度感作された後に再度その物質に触れると24〜72時間かけて炎症が現れます。
- 刺激性接触皮膚炎:アレルギーではなく、強い酸・アルカリや刺激物によって皮膚のバリアが直接破壊されることですぐに炎症が起こるものです。
主な原因物質
顔の接触皮膚炎の原因として特に多いのは以下のような化粧品関連成分です:
- 防腐剤(パラベンなど)
- 香料
- 紫外線吸収剤(日焼け止め成分)
- 染毛剤
- マスクの樹脂成分や接着剤
アジア人の特徴
アジアでの接触皮膚炎には以下のような特徴があります:
- 美容意識の高まりにより、多くの化粧品を重ね使いする傾向がある
- 低品質な化粧品の使用による皮膚炎も報告されている
- 皮膚のバリア機能が弱めで刺激に敏感
- 美白目的でのステロイドや強酸性ローションの誤用で皮膚が薄くなり、接触皮膚炎を起こしやすくなるケースもある
- 地域特有の化粧習慣(インドのビンディーや漢方由来成分など)によるアレルギーも
その他の原因
顔の赤みをもたらす他の原因としては、以下のようなものがあります:
- 全身性エリテマトーデス(SLE):両頬に蝶の形に広がる赤み(蝶形紅斑)が特徴的な自己免疫疾患
- 光線過敏症:日光による過敏反応で額や頬に赤みや発疹が出る症状
- 内科的要因:更年期障害によるほてり(ホットフラッシュ)、甲状腺機能亢進症によるほてりなど
- 生理的な反応:アルコール摂取や香辛料摂取による一時的な顔の赤み
まとめ:赤みへの対策
顔の赤みの原因は様々ですが、症状を和らげるための一般的な対策としては以下のようなものがあります:
- 原因を特定する:皮膚科を受診して、赤みの原因となっている疾患を特定しましょう。
- 刺激を避ける:自分の赤みを悪化させる要因(食べ物、環境要因など)を把握し、避けるようにしましょう。
- 適切なスキンケア:低刺激性の製品を使用し、皮膚のバリア機能を保護しましょう。
- 紫外線対策:日焼け止めを使用し、過度の日光曝露を避けましょう。
- 生活習慣の改善:十分な睡眠、ストレス管理、バランスの良い食事を心がけましょう。
- 専門的な治療:疾患に応じた適切な治療(抗炎症薬、抗真菌薬、血管収縮薬など)を受けましょう。
顔の赤みは生活の質に影響を与えることもありますが、適切な診断と治療によって多くの場合、症状を改善することが可能です。自己判断での治療は症状を悪化させることもあるため、気になる症状がある場合は早めに専門医に相談することをお勧めします。
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